このSHIPは、ただの廃校再生事業ではないと考えています。岩井地域全体のひとびとや産業と連携したエリアリノベーションのプロジェクトだと考えています。その上で、私たちが取り向くべきことをいくつか分解してみました。
このプロジェクトの固有性の一つは、「渋谷」とつながっているところにあります。当たり前のことですが、「都市と地域」は争いあうものでははなく、補完しあっているものです。例えば、渋谷にはたくさんのビルが立ち並び、多くの人々で賑わっていますが、ゆとりは少なく、自然もありません。食料だって、地域の生産しているものに頼っています。逆に、岩井にはたくさんの豊かな自然、空き家などの資産が眠っています。それらはちょうど補完し合えるものです。渋谷と岩井は、車でたったの80分。人々やそれぞれの資産が循環する場所になれるはず。SHIPはそのための拠点になります。
私たちSHIPが成功するためには、エリア全体のことを包括的に考え、取り組む必要があります。かつて「民宿のまち・岩井」として栄えていましたが、2019年の大型台風の被害、2年以上に及ぶコロナの影響で、大きなダメージを受けています。少子高齢化・過疎化もあり、産業の担い手も少なく、周辺には空き家や耕作放棄地も目立ちます。漁業を中心に一次産業の活性化、空き家の活用、再生エネルギーへの取り組みなど、今だからこそやるべきローカルリノベーションに取り組んでいきます。
「ネイチャーポジティブ(自然再興)」とは、生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを意味します。SHIPは、岩井海岸に位置しており、海という大きな恩恵を受けているといえます。しかし2024年現在、海は温暖化の影響を大きく受け、日本の漁業は大きな被害を受けています。海の多様性を守る活動を進めるとともに、海の価値・尊さを伝えていく拠点にしていきます。
もともとこの場所は渋谷区の「臨海学園」でした。海のない渋谷で育つ子どもたちが、海に触れ、海を学び、危険を知る「冒険教育」の場だったのです。しかし、今の社会では、大人たちも自然(海)に触れる機会は少なく、ビルとコンクリートに囲まれて過ごしています。SHIPは、子どもだけでなく、大人たちにとっても冒険教育を提供できるようなプログラムを作っていく計画です。
SHIPの運営は、できるだけ自分たちの手で行っていきます。大きな企業や「もともとあるブランド」に頼るのではなく、地域の空気を汲み取ったボトムアップで作っていくような場所にします。自分たちの目でみて、手でつくっていくことで、その空間に人の愛着が宿ると信じています。手間暇をかけながら、ゆっくりと育てていけたらと思います。